TM MAGAZINE 2026年9月1日
神産巣日神の表記揺れも一括検索|神社調査旅のための自作神名アプリ
千社近くの神社を巡っても、祭神名を前に、その神の系統はすぐに把握しにくい。神産巣日神だけでも、カミムスヒ、カンムスヒ、カムムスヒと表記が揺れる。そこで、あらゆる神名の揺れを一括検出できる自作アプリを開発した。移動しながら開発する。
近年、毎年のように起きる日本各地の自然災害や突発的な事態は、もはや日常になりつつあります。そして今日は、立春から数えて二百十日目。ちょうど、本格的な台風シーズンの到来にあたり、稲の収穫期も近く、警戒を要する時期となります。
大きな流れや、行き過ぎたシステムを、個人が是正することはできません。ですが、いついかなる状況に遭遇しても対応し、即断する準備と心構えを日頃から養っておくことは個人ができることであり、生存や豊かさにもつながるはずです。
直近の熊本地震や、千葉・北陸などでの豪雨被害でも、日頃から準備していた者と、していなかった者の差は、大きく運命を分けるものとなったでしょう。そこを見つめながら、今月から始まる旅のために、改めて装備を抜本的に刷新し、調査過程で何が起きてもいいように準備を進めています。
その瞬間、わずかでも心を落ち着かせるためです。災害は、いかに準備をしても突如として起こります。震度七や八の地震、猛烈な台風、一瞬で訪れる津波、気づけば腰の高さまで水没するコンクリートジャングルの豪雨。こうした状況に直面すると、脳はまともな判断力を停止します。
つまり、誰であっても一時的に脳は混乱する。ですが、その瞬間にどのように自分自身の冷静さを取り戻すかを知っているだけで、大きく未来が変わる。災害への装備や準備は、どうしても恐れが先行しがちです。「恐れ」から積み上げた備えは、積むほどに恐れが増していきます。この扱い方こそ、本当に重要な問題に思えます。
大切なのは、自分に合った準備を整えること。そして同時に、旅は旅として最大限に楽しむための準備を加える感性にあります。それこそが今、世界一の災害大国・日本を楽しんで生きるために必要なことではないでしょうか。
自分にとって楽しむための準備というものは、人それぞれに異なります。ですが、今日のように、誰でもある程度のものを自作できるようになった人類史上初の世界を、活用しない手はありません。そこで今回、間もなく始まる調査旅用に開発しているのが、各種自作アプリです。
これまで日本各地を巡り、千社近くの神社に足を運んできました。しかし、いくら『古事記』などの日本神話や歴史を事前に学んでいても、それぞれの土地で奉られている祭神名や由緒を目にしたとき、それがどの系統の神で、どういった場面に登場したのかといった情報が、すぐに把握しにくいという問題がありました。
特に、日本の神名は厄介極まりない。場所によって『古事記』と『日本書紀』の表記が違い、その他の別表記が多数あり、さらに旧字体と新字体の違いなども重なります。また神産巣日神だけでも、「カミムスヒ」「カンムスヒ」「カムムスヒ」「カミムスビ」「カンムスビ」「カミムスビ」という具合に、あらゆる表記の揺れが起こります。
それらを一瞬で把握することは難しく、これまでは都度、その場でウェブ検索をかけていました。ですが、その瞬間に知りたい最小限の情報に対して、世の中に溢れる情報はあまりにも無駄が多すぎる。何より、SEOのために作られた冗長な情報では、必要な情報に瞬時にアクセスできず、判断を鈍らせ、アイデアを逃してしまうようなことが頻繁に起きます。
現在、iPhoneの音声入力機能が使えるレベルに達したため、思いついたことはどんどんメモに口述し、拠点に戻ってAIで書き起こす&校閲ができるようになりましたが、ここに連動する神の系譜の問題は、僕にとって厄介な問題であり続けました。
そこで今回、これらの経験を踏まえ、現地で由緒の前に立ったとき、必要な情報だけを一瞬で抽出できる自作アプリを開発しました。これを使えば、これまでのような混乱も、わざわざ膨大なウェブ情報の中から調べ直す手間もなく、AIの冗長な文章に時間を奪われることもありません。パッと開いて検索すれば、その神の必要な情報が一気に出てきます。
そのアイデアの元は、実は遺伝子の母系・父系をデータベースにしたツリー形状にあります。つまり、神の系譜を遺伝子ツリーのように、仕上げようと考えたのです。何せ、國學院大学などが公開している神の系図は、あまりに複雑で、スマートフォン用に最適化されていないため、実用的ではありません。研究者ならまだしも、移動を前提に調査する者にとっては、実用的な系図が世に存在しない。
さらに、神名の難解な訓みをワンクリックで変えられる機能を実装し、その祭神の系統、神話における親・兄弟姉妹・婚姻関係などを網羅し、古事記をベースに日本書紀、先代旧事本紀、古語拾遺、歴史上の偉人、地域伝承の神々など、日本の神社に奉祀されている神々を、独自データベースに組み込みました。
画期的だと自負しているのは、あらゆる神名の揺れを網羅し、漢字の表記基準や読みの微妙なブレなども、一括検出できるシステムを組み込んだ点です。これを旅の過程でどんどん使い、改善点を炙り出しながら、リアルタイムでAIに指示を出して修正・アップデートしていく。この連携が24時間体制で可能になったこと自体が、非常に画期的なことだと感じます。
つまり、移動しながら開発する。
移動を続ければ続けるほど、これまでにない新たなアイデアが思い浮かぶ。その移動を加速するために、災害に遭遇する時を前提に準備を行い、自分にとって必要なものは自作する。それらを徐々に加えながら、自分自身の旅を最適化していく。
その結果、24Lバックパック一つで引越しができるようになりました。この夏、線状降水帯によって無数の車、家、家財が浸水して廃棄せざるを得なくなった被災者の姿を見つめながら、もはや自分の手に持てる範囲だけで、人生を完結させなければならない時代に入ったと、強く感じます。
今回は途中、友人たちと合流して旅を続けるため、友人たちの非常装備もバックパックに入れて、こっそり何が起きても楽しめる準備を整えています。それは、いつ起きるかわからない災害への徹底的な準備であると同時に、人生を徹底的に楽しむという姿勢そのものにつながっていくのではないでしょうか。
何しろ、僕たちの母国は世界一の災害大国であり、首都圏直下型地震や南海トラフ巨大地震は、今来てもおかしくないのですから。東海道が止まれば、日本経済は即終了です。これらを鑑みながら、手荷物だけで人生を完結させる。もしかするとこの心意気こそ、激動の時代の先へ進むための、本当に重要な要素なのかもしれません。