日本の旧暦に宿る歴史の知恵Historical Wisdom in Japan's Traditional Calendar
昨日お伝えしたお盆は、明治時代以降の新暦の導入によって、長らく旧暦と新暦に基づくお盆が地域ごとに分かれていましたが、現在では大体8月13日から16日までがお盆の期間にあたり、数日間行われる祖先供養の行事の一つとして、インド・中国を経由して日本で独自の風習として歴史的に形成されてきました。この時期に入ると、これまでの夏の暑さが夜間には少し和らぎ始めるのですが、これは立秋を過ぎたからです。立秋は水無月14日が旧暦ですが、今年であれば8月7日でした。この立秋は旧暦で「秋が立つ」と書くように、秋の始まりを告げる暦ですが、正直、近年の東海道地域の太平洋沿岸部の都市ではこうした実感を持つことが難しくなっています。
以前、私が北東北の夏祭りを追いかけていた際、祭りが終わって夜になると、風がもう秋を感じさせるほど冷たかったことを覚えています。そして全国各地で夏祭り、さらにはお盆を終えると神への祭祀や祖先供養が一段落し、ようやく実の秋に向けた準備が本格的に始まります。そもそも日本で旧暦は農民のための農耕暦であり、農民の暮らしに非常に近い暦法です。そして今の時期は、忙しい収穫期を迎える前の最後のひと息をつける時期といえます。
しかし、近年の激しい気候変動、とくに今年は夏に雨がほとんど降らない状態が続いたことから、秋の作物の収穫量が例年以上に減少するのではないかと不安視されています。さらに農家の人々にとって、この時期になると避けられないもう一つの自然要因があります。それが旧暦でいう「二百十日」です。二百十日は通常9月1日ごろに当たりますが、2025年は8月31日です。この前後は古来より最も風が強く、台風が多い時期であり、農作物の被害が頻発するため、農家にとっては最も気が休まらない1年で最も重要な時期となります。
また、この時期は旅行も控える方が賢明です。今では多くの人が旧暦を意識しなくなっていますが、旧暦こそ歴史的知恵の結晶であり、そこに基づいて注意すべき点は今も昔も変わりません。二百十日前後の1週間は台風が最も多い時期とされるため、旅行しても予定通り進まないことが多々あります。そのため、こうした古い知恵を理解している心得のある人は、この時期には絶対に旅行をしません。そしてこれは単なる言い伝えではなく、昔は各地でこの時期になると風の神を鎮めるための祭りが行われていました。今では村落ごとに行われる事はなくなりましたが、有名な富山県の「おわら風の盆」もその一つの名残を留めています。私も以前、この祭りに興味を持って訪れたことがありますが、これも風の神を鎮めるための祭りに起源を持っている点は見過ごせません。
無数の旅行サイトやブログは、こうしたことを書きませんが、実は日本の旅行のティップスとして最も重要なのは旧暦を知ることであり、そこを通じて旅行などの計画も立てることです。そして特に旅程の調整が難しいこの「風の時期」を乗り越えることで、ようやく素晴らしい秋を迎える準備が整います。しかし近年では、台風がこの時期だけでなく例外的な時期にも頻発しており、予測が難しくなっています。つまり現在では、台風のみならず、地震などあらゆる自然災害を常に考慮した旅行計画が日本では必須です。多くの旅行者はこうした視点を持たないかもしれませんし、地震や台風が起きない国の人々にとっては全く実感がないでしょうが、地震はいつ起こるかわからず、台風も旅行予定に合わせて避けてくれることなどありません。さらに土砂災害や洪水なども多発している現状を考えると、旅行を楽しむためにはサバイバルスキルを磨き、常に危機への備えを万全にしておくことが重要な時代になっていると感じます。特に日本のように自然災害が多い国では、この意識が欠かせず、最近では天気予報も全くあてにならないため、いつ襲ってくるかもしれない突発的な豪雨などを考慮しながら、移動手段も臨機応変に考えなければならないのです。
こうして考えると、旧暦を読み解きながら、それに基づく日本の古くから行われている伝統的な祭りや風習に足を運ぶことによって、さらに日本の理解が深まると言えるかもしれません。さらに現在、村落共同体で継承されてきた大半の伝統的な風習や習俗が完全に途絶えようとしている最後の時代を迎えている点も真剣に考慮しなければなりません。日本の超高齢化社会は2030年に65歳以上が全体の30%を超えるという人類史上初めての事態に一億人規模で突入しますが、米国を除いた他の先進国も同様の問題を抱えているため、今のうちに自分たちの国の未来がどうなるかを、日本というレンズを通して知っておくことは必要に思えます。今、勢いのある若年世代が多い国とて、未来は基本的には同じ方向に向かうでしょうし、だからこそ日本が何を失敗したのかを今のうちに理解しておくことは、文化を未来に残すためにも必要不可欠です。普通に考えればわかりますが、文化の持続は人がいなければ始まりません。
個人的には私たちの世代が『日本』と多くの人々が考える文化を体験することができる最後の世代だと思っています。