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南海トラフ巨大地震の歴史と経済への衝撃Facing the Greatest Threat in Japan's History

前回は、今後30年以内に起きると予測されている東京を筆頭とする首都直下型地震の歴史について書きました。今回は、それ以上の破壊的打撃をもたらす『南海トラフ巨大地震』についてです。

南海トラフ地震は、駿河湾から九州沖にかけて伸びるプレート境界で発生する巨大地震で、日本列島の太平洋沿岸地域、とりわけ経済の中心地である関西圏に大きな影響を与えてきた歴史があります。記録のある限り、これらの地震は100~150年周期で繰り返し発生しており、地震と津波による被害は過去に何度も甚大な規模となっています。この巨大地震が最後に発生したのが第二次世界大戦末期の1944と1946年であったことから、歴史のサイクルにならえば、「今後30年以内に80%の確率で南海トラフ巨大地震が発生する」と政府の地震調査でも予測されています。

まず、大きく歴史を振り返ることから始めます。南海トラフ巨大地震に関わる最古の記録には、684年の『白鳳地震』があり、現在の高知県沖から和歌山県沖にかけて震源とされています。規模はM8.3程度で、各地で山崩れや津波が発生し、多数の死傷者を出しました。次いで887年の『仁和地震』では、京都でも被害が出るほど揺れが広範囲に及び、沿岸部では津波による溺死者も多数報告されました。1096年の『永長地震』と1099年の『康和地震』は、時間差で東海と南海の二つのセグメントが破壊された連動型地震とされています。この地震の研究によって、南海トラフ地震は必ずしも一度に発生するわけではなく、数年の間隔で東西に分かれて起こる可能性が指摘されています。

14世紀の『正平地震』(1361年)や15世紀末の『明応地震』(1498年)では、関西圏でも大きな揺れがあり、津波が遠く関東の房総半島にまで及びました。これらの地震は、戦乱や社会混乱期に重なっていたため、復旧や記録が十分でなかったことから全貌は明らかではありません。

江戸時代に入った1605年の『慶長地震』では、揺れによる被害は比較的小さかったものの、津波による壊滅的な打撃が沿岸各地を襲いました。1707年の『宝永地震』は日本史上最大級のM8.6という規模で、南海トラフ全域が連動して一度に起きたと考えられています。この地震では死者2万人以上、津波や土砂災害によって各地に甚大な被害を与えました。さらに、49日後には富士山が大規模な噴火を起こしており、地震と火山活動の関連性も注目されています。1854年には、わずか32時間の間に『安政東海地震』(M8.4)と『安政南海地震』(M8.4)が発生し、東海から四国にかけて広範囲に被災。特に津波被害が甚大で、和歌山などの沿岸部は壊滅的な被害を受けました。

近代に入ってからは、前述の1944年の『昭和東南海地震』と1946年の『昭和南海地震』が連続発生し、戦中戦後の混乱期、さらには情報統制が厳しかった背景から、被害の把握に時間を要しました。死者・行方不明者は合わせて約2,500人にのぼり、沿岸部では津波による浸水被害も深刻でした。

これらの事例からも明らかなように、南海トラフ巨大地震は周期的に発生しており、そのたびに関西圏を含む西日本に甚大な被害をもたらしてきました。特に津波による被害は甚大であり、過去の記録からもその危険性は明白です。現在、政府の地震調査では「最悪の場合の死者は23万人以上」という想定も出されていますが、同時に首都直下型地震以上に、南海トラフ巨大地震は巨大化した戦後日本の経済圏を初めて襲う巨大地震になります。そこで、被害想定を見てみましょう。

政府の地震調査委員会によれば、南海トラフ沿いでマグニチュード8~9級の巨大地震が今後30年以内に発生した場合、建物の全壊・焼失は約238万棟に上り、直接的な経済被害額は最大約169.5兆円に達すると試算されています 。これは東日本大震災(2011年)の被害額(約16.9兆円)をはるかに上回る巨額であり、道路・鉄道・港湾・電力網などインフラは壊滅的打撃を受けると想定されています。ビジネスや旅行のインフラである東海道・山陽新幹線や高速道路網は長期不通となり、首都圏と西日本の交通・物流も寸断される恐れがあります。

また、直接被害だけでなく、震災後のサプライチェーン寸断による間接被害も甚大です。南海トラフ巨大地震の想定地域(主に東海から西日本)は、日本の製造品出荷額の約6割、特に自動車産業では約9割を占める経済の中枢です 。工場設備の倒壊や従業員の被災、物流網の崩壊によって企業活動は広域で停止し、部品供給が滞り、全国規模で生産が縮小すると予測されています。その結果、地震発生後の国内総生産(GDP)は大幅に落ち込み、政府は発生直後の経済活動の低下による損失が約36~45兆円規模に及ぶと推計しています 。

さらに被災地の生産活動の停滞が長期化すれば、中小企業の倒産や雇用喪失が相次ぎ、経済成長率の極端な低迷が長期化する懸念があります。さらに復興が遅れた最悪ケースも想定されており、そこでは地震後20年間の累積経済損失は最大1410兆円にも達する可能性があるとされています 。これは直接被害に加え、インフラ寸断による生産減や所得減少(約1240兆円分)を積み上げた衝撃的な数字で、日本が巨大地震をトリガーに『世界の最貧国』に転落しかねない規模の損失であることが理解できます。つまり、日本にとって最も現実的な転落シナリオは、経済成長の鈍化、AIなど先端テクノロジーの需要、世界恐慌のようなものよりも、巨大地震にあるということです。

このような未曾有の震災は、当然ながら金融市場にも深刻な波及効果を及ぼします。生産拠点の喪失や企業業績の悪化により、日本企業への信頼が低下すれば、株価の暴落や為替相場の急変動、国債金利の上昇といったリスクが生じます 。資金調達コストが上昇すれば企業の財務状況はさらに悪化し、信用不安から倒産の増加につながるおそれもあります。また復旧・復興には巨額の公的資金投入が不可避であり、国家財政にも大きな負担となります 。かつて阪神・淡路大震災や東日本大震災の際にも、一時的に消費マインドが冷え込み、株価が下落するなど経済にマイナス影響が出ましたが、南海トラフクラスの巨大災害では、その比ではない深刻な打撃となるでしょう。

このように、私たちが生きている間に確実に起きると予測されている南海トラフ巨大地震は、戦後日本の急成長を遂げた経済レベルを木っ端微塵に破壊する可能性を秘めており、歴史上、人類が体験したことのない事態が発生することが考えられます。また日本に来訪する旅行者は急増していますが、仮に南海トラフ巨大地震に遭遇した場合、京都・大阪・奈良などの西日本全土どころか、首都圏との交通網も全て遮断されることから、そうした最悪のリスクを旅行前に徹底的に想定することが必要です。

実際、これは日本で日常的に考えられていることですが、「地震は予測できず、今来てもおかしくない」のです。そのため、少なくとも歴史に学ぶことで、私たちは災害への備えの重要性を再認識する必要があります。南海トラフ地震の再来に備える準備を徹底し、その上で旅行を楽しむことこそが、観光ガイドなどでは語られないダークなtipsと言えるでしょう。