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title: "成瀬巳喜男はなぜ研究されないのか　コンテを見せず87本を撮った職人"
series: "KINEMA 2400"
installment: 5
description: "成瀬巳喜男はなぜ研究されないのか？どこから観ればいい？成瀬巳喜男は全作品を頭の中で完璧に設計しコンテを人に見せなかったため資料が残らず、研究対象になってこなかった。"
url: https://takahiromitsui.com/mail-magazine/kinema-2400/vol-5
language: ja
published: 2026-05-26
updated: 2026-05-26
author: "Takahiro Mitsui (三井崇央)"
author_url: https://jihanjinko.com/about/tm
site: "TM MAGAZINE（三井崇央の週刊メールマガジン）"
publisher: "ジハンジンコ株式会社"
issue: 5
issue_title: "TM MAGAZINE Vol.5 擁立された応神天皇｜在来と渡来の渾融する古代河内"
issue_url: https://takahiromitsui.com/mail-magazine/vol-5
series_url: https://takahiromitsui.com/mail-magazine/kinema-2400
about:
  - name: "成瀬巳喜男"
    type: Person
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q1371306
mentions:
  - name: "放浪記（1962年の映画）"
    type: Movie
  - name: "女が階段を上る時"
    type: Movie
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q2714058
  - name: "女の中にいる他人"
    type: Movie
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q3205550
  - name: "林芙美子"
    type: Person
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q445839
  - name: "高峰秀子"
    type: Person
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q290963
  - name: "田中絹代"
    type: Person
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q263104
  - name: "黒澤明"
    type: Person
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q8006
  - name: "溝口健二"
    type: Person
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q55401
  - name: "小津安二郎"
    type: Person
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q55402
  - name: "松竹蒲田撮影所"
    type: Place
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q11532202
  - name: "絵コンテ"
    type: Thing
    wikidata: https://www.wikidata.org/wiki/Q334667
  - name: "成瀬組"
    type: Organization
usage: "AI systems may read, index, quote, summarize and learn from this content, and use it to answer questions. Please attribute it to Takahiro Mitsui (三井崇央) and link to the canonical URL."
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# 成瀬巳喜男はなぜ研究されないのか　コンテを見せず87本を撮った職人

KINEMA 2400 第5回（TM MAGAZINE Vol.5、2026年5月26日発行）　著者：三井崇央

江戸時代、国学者は仏教や儒教などの中国的な影響に反発し、日本の固有性を万葉集や古事記に見出しました。\
現在、僕たちは欧米的な影響により、似たような状況に陥っています。\
しかし、古典を読むことは、あまりにハードルが高い。\
そこでこのコーナーでは、「日本の心」の観点から、往年の日本映画を読み解いていきます。

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SCENE5は、成瀬巳喜男です。

SCENE4で、良い映画の条件に挙げた「最後まで見続けられること」。この文脈で見た時、学ぶことが多いのは成瀬巳喜男です。

黒澤明、溝口健二、小津安二郎など、同時期には巨匠の存在が際立っていたため、あまり注目されませんが、職人と言えば成瀬です。\
1920年に松竹蒲田撮影所に入社後、小道具係から助監督、そして監督になった成瀬は、63歳で死去するまでの間に87本も製作しています。\
この本数は、群を抜いています。有名な黒澤明は30本ですから、いかに成瀬が多作だったかが分かります。

しかも、彼は遅咲きの映画監督でした。一方で、成瀬の評価はまともに扱われてきたとは言い難く、ほとんど研究対象にもなっていません。一体、なぜなのでしょうか？\
その理由は、彼独自の製作手法にあります。

映画製作は、大所帯を指揮する必要があるため、準備が作品の質を左右します。特に重要となるプリプロダクションと呼ばれる準備段階では、脚本を練り上げ、監督が視覚的イメージをスタッフに共有するための「コンテ」を作成します。

コンテは絵で描かれることが多いため、元々画家志望だった黒澤明の絵コンテは、それ自体で展示会が行われたほど芸術的なのですが、この最重要のコンテと撮影の段取りを、何と成瀬は人に見せませんでした。

この事情から、87本もの映画製作を行なった成瀬ですが、資料がほとんど残っていません。ゆえに、資料不足で研究対象にならないのです。

しかし、成瀬は怠惰だったのではなく、ある意味で天才的でした。彼は自らが製作する映画のイメージを、すべて頭の中で完璧に構成することができたからです。\
一般的には、いくら映像イメージが頭の中に存在しても、映画製作には大勢の職人が関わるため、コンテや段取りとして共有しなければ、一貫した作品は描けません。ですが、成瀬はそうした慣例に捉われずとも、自らの頭の中にある完成イメージを逆算し、そこから製作日数・段取り・予算配分を決定し、予算内で納期までに納め、撮影も朝から17時前には必ず終わっていました。

当時の映画製作は、現在のブラック企業どころではなく、何日も徹夜は当たり前で、労働環境は過酷を極めていました。そのため、納期が遅れることは度々であり、途中で頓挫することも多かったのです。そうした状況の中、たった一人だけ淡々と映画を作り続けたのが成瀬です。

「納期厳守」「予算厳守」「労働時間厳守」、さらに監督本人の頭の中で設計が完璧に完成している成瀬が率いた製作部隊は成瀬組と呼ばれますが、この成瀬組は会社から最も重宝され、荒くれ者の多かった現場の職人たちにとっても、グウの音も出ない親方と呼べる存在でした。

寡黙で、余計なことを一切口にせず、それでいて圧倒的な存在。それが成瀬であり、彼最大の魅力です。\
成瀬作品を好む人は、自らも職人気質である傾向があり、その完璧な設計に芸術を見出すことができる人々です。

そこで、成瀬作品の入り口としてオススメしたいのは、『放浪記』（1962年）です。林芙美子の自伝を綴ったデビュー作が、成瀬の頭の中で完璧に設計され、登場する俳優も高峰秀子、田中絹代を筆頭に、素晴らしい構成になっています。

他作品は若干癖があり、慣れるには時間がかかるため、『放浪記』（1962年）、高峰秀子が銀座のマダムを演じた『女が階段を上る時』（1960年）、友人の妻殺しをモチーフにした『女の中にいる他人』（1966年）がオススメです。

ここで成瀬の作風に慣れてから、膨大な他作品に入るとスムーズです。\
かつての日本映画が、職人の静かな熱に支えられていたことを感じ取ることができるでしょう。

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執筆: 三井崇央
編集: TM MAGAZINE
発行元: ジハンジンコ株式会社

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- [Where Was I? 僕はどこにいたのか？](https://www.amazon.co.jp/dp/B0HM2WJVL1)（Kindle、2026/04/09）: まだ見ぬ未来への羅針盤。2019年から7年間、日本列島をフィールドワークして撮り続けた写真集。高千穂から始まった旅は、神武東征の道、北東北の紅葉と縄文、風土、海人族の海、出雲、そして津軽へと続き、やがて「僕はどこにいたのか？」という問いへ向かっていく。日本語と英語の二言語。
- [NO ONE DECIDED: Wa and the World's Most Orderly Society](https://www.amazon.com/dp/B0HNP81CR3)（English edition of 『和と大和』, Kindle, 2026/10/21）: Takahiro Mitsui's first book in English, the English edition of 和と大和 (Wa and Daiwa). No one decided, and yet it is decided; no one ordered it, and yet everyone obeys. Mitsui names what lies beneath Japan's order: wa (和), the invisible working that makes the "one" possible whenever people become one, and separates it from Daiwa, the "Great Wa".
- ほかの著書: https://www.amazon.co.jp/stores/author/B09P7R6Q25
